THE GRANDUOシリーズの特徴のひとつに、時代の最前線を走る建築家たちによる設計があります。高級賃貸という枠組みのなかで、彼らは何を考え、どんな空間を生み出そうとしているのか。このコラムでは、THE GRANDUOを手がけた建築家たちが空間に込めた思想と美学を、本人の言葉で紐解いていきます。

第3回は、永山祐子建築設計の永山祐子さん。
ドバイ万博日本館から大阪・関西万博まで、国内外で注目を集める建築家が語る「本質的な豊かさ」とは。


個人住宅を設計するとき、永山祐子さんはその家族の家を実際に訪れます。玄関に置かれた野球道具、キャンプ用品、子供たちの様子。ヒアリングでは出てこない生活の痕跡を読み取り、5年後、10年後の暮らしまで想像する。構造も、仕上げも、住む人に合わせて変えていく。それが永山さんの住宅設計です。

では、まだ住む人が決まっていない集合住宅の場合はどうするのか。

「仮想で、こういう人がいるなとか、こんな人が住むのかなとかイメージします。駅から歩いてきて自分の家が見えたときどう思うか、朝起きたらどんなふうに過ごすのか。住んでいる人の一連の動きみたいなものを、細かく想像しながら設計していきます」

たとえば、今回手がけたTHE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKUでは、商店街に面した立地から「街の賑わいが好きな人」を想定したそうです。リビングでソファに座ったとき、街は見えないけれど音は聞こえる。立ち上がると少し外が見える。生活のなかで自然に街との距離感が変わることを考えたといいます。

ものではなく、経験として豊かであること

THE GRANDUOは高級賃貸物件です。永山さんが考える「高級」とはどのようなものか聞いてみました。すると、その答えはシャンデリアや高価な素材とは違うところにありました。

「おそらく『高級』って言葉も、ただ仕上げに高価な素材を使っているとかではなくて、ものじゃなく、経験として豊かだっていうところが実はすごく大事なのかなって」

光を感じる。緑を見る。風が通る。それだけで心身ともに元気になる。そういう「経験」を空間のなかにどう埋め込むか。永山さんはそこに注力してきました。

独立して自分の事務所を構えて24年。永山さんのキャリアは、住まいへの意識が大きく変わった時代と重なっています。
1998年に『Casa BRUTUS』が創刊されるなど、メディアでも名作と称される家具やインテリアの情報が広く発信されるようになりました。

「『Casa BRUTUS』のような雑誌が名作家具を発信し始めてから、専門家じゃなくても照明や椅子を自分で選ぶんだ、という感覚が広がってきた気がしますね」

関心は家具から照明へ、さらにアートや緑へと広がっていきました。自分の身の回りのものを自身で選んでいこうという意識が育つなかで、永山さんはそういう人たちと向き合いながら設計を続けてきました。

ただ、受け皿となる住宅が追いついていないとも感じています。

「自分の暮らしをキュレーションしたいという方が増えてきている。じゃあそれに見合った住宅が供給されているかというと、実は結構少ない。アートがかけられそうな壁なのかとか、照明がそれに対して用意されているのかとか」

内装はあえてプレーンに仕上げる。好きな家具を置きたい、アートを飾りたい、植物にこだわりたい。住む人が自分の好きなものを持ち込んで、自分の場所をつくっていく。建築はその背景になればいい。永山さんの確信は、24年の間に時代の変化を見てきたなかで強まっていったといいます。

死守した水平の開口

永山さんがTHE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKUで「死守した」と語るのは、360度に広がる水平の開口です。

一般的なマンションでは、窓があるのは外壁の一部だけ。残りの壁には柱があったり、水回りが配置されていたりします。配管を通すために水回りは外壁側に寄せるのが定石で、窓を取れる面は限られます。

永山さんはこの常識をひっくり返しました。水回りをすべて建物の中心部、いわゆる「コア」に集約したのです。コアから床を張り出す構造にすれば、外周には柱も配管も必要ない。だから全方位を窓にできる。

ただし、この構造は簡単ではありません。中心のコアには通常よりはるかに分厚いRC壁が必要で、すべての配管をコア内に通すため、設計段階で設備の位置を完全に決めておかなければならないからです。

「よくあるのは後から『こっち変更しようかな』『いいよ、じゃあ穴開けようか』みたいなこと。今回はできない。もう最初に全部決めとかなきゃいけない」

設計も施工も、通常のマンションとは比較にならない難易度。それでも永山さんはこの構造を選びました。どの方向を向いても光と風と街の気配を感じられる。それが「経験として豊かな住まい」を実現する方法だったからです。

もうひとつこだわったのは、外と内の連続性。

外装にはOSB型枠を使っています。OSBとは木片を接着剤で固めた板で、表面に木のチップが独特の模様を描きます。一方、室内の天井には木毛板(もくもうばん)。木材を細長く削った繊維をセメントで固めた素材で、やはり表面に繊維の質感が現れます。このふたつは見た目がよく似ていて、色を合わせると外観から内観へL字型に同じ仕上げが続いて見える。

「外から見たときに、部屋の中はほぼ見えないけど、天井は絶対に見えるなと思って。だからそこも同じ仕上げにすることが、この建物の印象そのものになる。外観と室内の天井が一体となって、ファサードとして見せることができるんじゃないかな」

外装と天井が連続することで、バルコニーという「外」と、リビングという「内」の境界も曖昧になり、空間が外へと広がっていく感覚が生まれます。

品とは何か

永山さんの言葉で印象的だったのは、「品(ひん)」という概念です。

「デザインから『ほら、ここ頑張ったでしょ』みたいなのが見えすぎると、ちょっと品がない方向になるのかなと思って」

入った瞬間に何かが違う。でもそれが何かはわからない。とにかく気持ちいい。永山さんが目指すのは、そういう空間です。

「今回、すごく頑張りましたと説明すれば、難易度の高さは伝わりますけど、たぶん住む人がそれを知る必要はそんなになくて。生活している中で醸し出される豊かさみたいなのを、ナチュラルに享受してもらえれば」

構造的には相当なチャレンジをしている。でもそれを見せない。一見、普通に見える。だけど確かに違う。
その「違い」を言葉にしないまま感じてもらうこと。それが永山さんの考える「品のある建築」なのかもしれません。

Text by AOYAMA Tsuzumi

THE GRANDUO GAKUGEIDAIGAKU
〒152-0004 東京都目黒区鷹番2-9


永山祐子建築設計
表層と空間の関係性を探求し続ける永山祐子によって2002年に設立。住宅から商業施設、万博パビリオンまで幅広いプロジェクトを手がける。代表作に「ドバイ国際博覧会 日本館」「東急歌舞伎町タワー」「LOUIS VUITTON 大丸京都店」「豊島横尾館」など。2025年大阪・関西万博では「パナソニックグループパビリオン『ノモの国』」や「ウーマンズ パビリオン in collaboratoin with Cartier」の設計も手がけた。
https://www.yukonagayama.co.jp/