
2025年度グッドデザイン賞で、THE GRANDUOを手がけるフェイスネットワークは8つのプロジェクトで受賞しました。なかでもご紹介したいのがそのひとつ、都市緑化プロジェクトです。
小さな緑を集めて100坪の森を創る「100坪の森プロジェクト」。
建物を立体的な森として設計し、年間100坪の緑を東京に生み出す取り組みです。株式会社イケガミのアクアソイル工法により、雨水貯留や打ち水効果も実現。城南3区を中心に展開する緑のネットワークは、点から線へ、線から面へと広がっていきます。
緑化がデザインである理由を探っていきましょう。
私たちフェイスネットワークの「100坪の森プロジェクト」が、2025年度グッドデザイン賞を受賞しました。
グッドデザイン賞といえば、美しい椅子や革新的な家電、洗練された建築物が並ぶイメージですが、「都市緑化の取り組み」という形のないプロジェクトが選ばれたのです。
審査員の評価はこのとおり。
「立体的な建築化植栽は、緑化の多面的な効果を追求し、建築デザインに新たな展開を示している点が評価された。視覚的な効果にとどまらず、都市環境における治水効果やヒートアイランド抑制まで見据えた緑化は、地域社会への大きな貢献になるであろう。緑を飾りとして扱うのではなく、むしろ植栽を建築のデザインに融合させ、住人の暮らしに還元しようとする姿勢が重要な視点である」
植栽を建築と一体化した「立体的な設計」すなわちデザインとして捉える。植栽は付加要素から、主要な設計要素へと昇華されていたのです。都市を立体的な森として設計する。それはまさに、これからの時代のデザインなのです。

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL 完成イメージCG
建物のあらゆる面を「土壌」として捉え直し、緑が育つ場所に変えていくという建築デザイン。
はたしてそれはどのようなものか。その具体的なデザインについて掘り下げていきましょう。
建物たちを、ひとつの森として考える設計思想
私たちが持っているビジョンは、“一棟ごとの小さな緑が、やがて街全体の風景を変えていく”というものです。
THE GRANDUOシリーズ、GranDuoシリーズで実践している緑化。それは地表面だけで完結しません。上階のバルコニー、壁面、屋上。建物のあらゆる面を緑化の可能性として捉えました。
たとえばGranDuo上馬。ここでは壁面から緑が垂れ下がり、建物そのものが立体的な土壌となることを目指しました。風が吹けば植物が揺れ、朝の光に葉が輝く。季節が巡れば緑の色合いも変化していく。

GranDuo上馬における緑化の取り組みを行った実例
この立体緑化には、実は2つの意図があります。
ひとつは限られた敷地で緑化面積を最大化すること。もうひとつは、各階の住民が等しく緑を享受できる環境を作ること。1階の専用庭から最上階のルーフバルコニーまで、すべての住戸が緑とつながる。各物件では、武蔵野の在来種の活用を重視しており、地域の生態系との調和を意識した植栽計画を行っています。
2025年度からは入居者向けの植栽パンフレット配布も開始しました。どんな植物が植えられていて、どう手入れすればいいのか。緑のある暮らしを、みんなで育てていく仕組みです。
美と機能の融合を支えるパートナーの技術
この立体緑化を技術面で支えているのが、パートナー企業である株式会社イケガミの「アクアソイル工法」です。
この工法は独自開発した土壌基盤であるアクアソイルを活用するもの。アクアソイルは手に取ると、意外なほど軽い素材で、多孔質素材のこの土は一般土壌の3倍の保水力を持ち、440リットル/㎥前後の保水力とされています。この数字だけ聞いてもピンとこないかもしれませんが、1の土が、ドラム缶2本分以上の水を蓄えるということです。この特性が、都市に3つの恩恵をもたらします。

アクアソイル工法施工中の様子
アクアソイル工法が都市にもたらす3つの恩恵
① 小さなダム効果・・・ゲリラ豪雨の朝を思い出してください。排水溝から水があふれ、道路が川のようになる光景。私たちは植栽帯に雨水系統を一部つなぎ、1プロジェクトあたり600リットルの雨を一時的に受け止めることができるよう設計をしています。世田谷区が掲げる「世田谷ダム構想」は、全世帯で13万㎥の貯留を目指す壮大な計画ですが、そのなかにあって私たちの600リットルは小さな一歩ですが、確実な一歩です。
② 打ち水効果・・・真夏日の午後3時。アスファルトが陽炎を立てる時間には、潅水装置が動き出します。アクアソイルにたっぷり蓄えられた水が、ゆっくりと蒸発していきます。建物の表面温度が下がり、風も心地よく感じられるでしょう。江戸時代から続く打ち水の知恵を、現代の技術で建築に組み込みました。
③ 生態系の保全・・・武蔵野の在来種にこだわる理由。それは単純です。この土地で長く生きてきた植物は、この土地の虫や鳥たちとも長い付き合いがあるからです。小さな緑地でも、その土地の生き物にとっては大切な中継地点になるのです。
東京に、年間100坪の緑を還元します
私たちは城南3区(世田谷区・渋谷区・目黒区)を中心に、各自治体の緑化条例基準を超える緑地を年間100坪分創出しています。
100坪と聞いて、どれくらいの広さか想像できるでしょうか。それは、テニスコート1.2面分。野球のダイヤモンドがすっぽり入るくらい。その緑を、毎年東京に増やしていくわけです。
物件は点在しています。THE GRANDUOシリーズは二子玉川、南青山、千歳船橋、学芸大学、上目黒、東が丘。GranDuoシリーズは下北沢、上馬、代々木。地図にプロットすると、緑の点が城南エリアに広がっていくことがわかります。
各自治体の緑化条例基準を超えた分、つまり「余分に植えた緑」1㎡あたりにつき1,500円を都市緑化団体に寄付するGREEN CHARITYシステムも始めました。2024年度は世田谷まちづくりトラストへ20万円。事業主・設計者・植栽施工会社、みんなでお金を出し合って、街に恩返しをする。ビジネスとしては小さな金額かもしれませんが、続けることに意味があると考えています。
これこそ、未来のデザインだ
「構想力・デザイン力のある建築家とのコラボレーションを積極的に行い、短期的で効率の良い開発より、長期スパンで思考しデザインしていきたい。いまは点の開発だがやがてこれを線へ、そして面へと進化させていく。あわせて、私達があらたに取り組むテーマである“安全、安心な街づくり”という観点から、照明に焦点を当て、“小さな緑”と一体となって風に揺らぐ、“小さな灯り”の開発も進めていく」
建築一部執行役員の久野はこう語ります。
緑化はいまや「コスト」から「投資」として考えるべきもの。人と自然が調和し共生する「Biophilic Design(バイオフィリックデザイン)」。維持管理の手間がかかる緑を建築と一体化させ、経済合理性の新たなバランスを構築するわけです。いまは点からスタートしているプロジェクトですが、やがてこれが線となり面へと広げていくイメージです。
なるほど、これは確かにデザインでした。
緑化の推進により都市の温度を下げ、雨水を受け止め、生き物たちの居場所を作る。さらにここには小さな灯りを灯しながら、街全体の環境をより住みやすくなるようにデザインしていく。グッドデザイン賞が評価したのは、まさにこの視点でした。
小さな緑を集めて100坪の森を創る。
フェイスネットワークが実現するのは、未来の都市に向けた、新しいデザインの形です。
Text by AOYAMA Tsuzumi

写真:左から 株式会社イケガミ 中西氏、池上氏、株式会社フェイスネットワーク 久野、矢野
Producer 久野 泰浩(株式会社フェイスネットワーク / 建築一部 執行役員)
グッドデザイン賞の受賞は、これまでの挑戦の成果であり、次へのスタートでもあります。社会課題にどう寄与できるかを模索し続けてきた中で、緑ある街づくりというテーマを共有し、多くの仲間と議論を重ねながら形にできたことを嬉しく思います。このプロジェクトが、他の企業や地域へ波及していく兆しも見え始めており、今後もより良い都市環境の実現に向けて、発展的に取り組みを続けていきたいと感じています。
Designer 矢野 聖玲菜(株式会社フェイスネットワーク / 建築一部)
緑化への取り組みがグッドデザイン賞として評価されたことを心から嬉しく思います。限られた空間で質と量の両立を図るには多くの調整が必要でしたが、設計と現場が粘り強く対話を重ねた結果、都市の中で生きる「緑の機能」を実現できたと感じています。都市環境に寄与する仕組みとしての緑をどう成立させるか、その試行錯誤の積み重ねが、今回の受賞につながったと考えています。
Partner 池上 靖幸(株式会社イケガミ / 代表取締役)
今回の受賞を心から嬉しく思うとともに、ご支援くださったすべての皆様に深く感謝申し上げます。フェイスネットワーク様との協業は、建築物に緑化が標準的に備わる時代の幕開けであり、暮らしや環境、そして経済面にも確かな価値をもたらすことを示す第一歩です。この新たな挑戦に私たちの技術を活かせたことは、大きな学びと成長の機会でもあります。気候変動がもはや遠い出来事ではなく、私たちの暮らしに直接影響を及ぼす現実となった今、都市緑化の重要性はますます高まっています。技術と経験、そして長年培ってきたノウハウを活かし、持続可能な都市環境の実現に貢献できるよう、これからも進化と挑戦を続けてまいります。
Partner 中西 研大郎(株式会社イケガミ)
緑化の取り組みに携わることができたこと、そしてその成果がグッドデザイン賞という形で評価されたことを、素直に嬉しく思います。限られたスペースの中で緑化の質と量をどう両立させるかが大きな課題でした。特に、現場とのすり合わせでは、植栽の選定や維持管理の方法など、設計上の理想と施工現場の現実との間で細かな調整が必要となり、何度も対話を重ねました。設計・施工・運用に関わる多くの方々の尽力があってこその受賞だと感じています。
『小さな緑を集めて100坪の森を創る』2025年度 グッドデザイン賞 受賞
フェイスネットワーク|グッドデザイン賞2025 特設サイト
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