THE GRANDUOシリーズの特徴のひとつに、時代の最前線を走る建築家たちによる設計があります。高級賃貸という枠組みのなかで、彼らは何を考え、どんな空間を生み出そうとしているのか。このコラムでは、THE GRANDUOを手がけた建築家たちが空間に込めた思想と美学を、本人の言葉で紐解いていきます。

第2回は、SUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠さんと吉田愛さん。
二子玉川のプロジェクトを手がけた二人が語る、50代で辿り着いた「設計のこだわり」とは。


建築家のプレゼンテーションといえば、コンセプトを言語化し、論理で武装し、「だからすごいでしょう」と説得するものだと思っていました。少なくとも、SUPPOSE DESIGN OFFICEを率いる谷尻誠さんは「かつてはそうでしたね」と言います。
「ONOMICHI U2」、「社食堂」、そして「NOT A HOTEL NASU」。話題作を次々と世に送り出してきた建築家が、50歳を超えたいま、意外なことを口にしました。

「一番やりたいプレゼンテーションは、『これがいいです。なぜならばこれがいいからです』っていうもの。理由を言葉にしなくても、“好きだから”っていうだけで本当は十分なんじゃないかと思っています」(谷尻さん)

強いコンセプトがなくても、いいものはできる。むしろ、頑張りすぎた建築は「手跡」が残る。説明すればするほど、言い訳をしているように見えることすらあります。そんな肩肘はらなくても、ちゃんとした材料を、ちゃんとした形で、ちゃんとした使い方をして、美しいプロポーションさえ押さえれば、それで十分なのではないか。
「“頑張ってる”ものがやけに目につくようになった」と谷尻さんは言います。

10年後に「ボロく」なる建築、「味が出る」建築

共同主宰者の吉田愛さんもまた、同じ方向を見ています。彼女が最近考えているのは「完成」という概念そのものへの疑いでした。

「これが完成っていうものではなくて、そこから良くなり続けるような建築がいいなって思っていて。磨き続けてツヤが出て、また磨いて良くなっていくビンテージ物のような。育てていく建築というものがあると思います」(吉田さん)

だから素材選びが変わります。たとえばTHE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL(2026年3月竣工予定)とTHE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SEED(2026年6月竣工予定)では、今どきのツルッとしたコンクリートではなく、ビシャン仕上げのざらついた質感やパーフェクトウォッシュ(ショットブラスト)というつぶつぶとした質感を選びました。
ピカピカの化粧板ではなく、錆びても剥げても「嫌な感じにならない」生の鉄。傷がついたときに「なんかいいアジが出た」と言えるかどうか。それが素材を選ぶ基準になりました。

「頑張って作って『こんなにこだわった建築、他にないでしょう』ってやって、その10年後になんか悲しい姿になっている建築って、本当にいい建築なのかって。建築ってやっぱり長い寿命なわけですよね」(吉田さん)

年を重ねた自分たちを肯定するように、建物もまた年を重ねていい。吉田さんはそう考えているそう。
丹下健三の60年代、70年代の建築は古いけれどやっぱりいい。手をかけて見直しながら、また使いたいと思える。そういうものを作りたい、と。

植物には「完成」がない

谷尻さんが近年、設計に積極的に取り入れているのが植物です。二子玉川や世田谷エリアで手がけた複数のプロジェクトでは、建物の外壁から緑があふれ出すようなデザインを採用しています。ただしそれは単なる「緑化」ではありません。

「建物っていうのは設計図の通りに作り上げて“完成”しますが、植物には“完成”がないです。今日も完成、明日も完成で、日々未完成です。常に移ろっていく状態に僕らは何か美しさを感じたり、儚さを感じたりすることに気づきました」(谷尻さん)

未完成と完成の間。そこに人の感情が動く余地があります。谷尻さんが長く考え続けてきたテーマは「自然の概念をもつ建築」です。建物は完成してしまうけれど、自然は新しいとか古いとか言うものではありません。常に新しくもあり、古くもあるのが自然です。

「できた時から、以前から建っていたように出来あがれば、それはもっと街並みに馴染む建築になるはずです。変に気張って、どうだ! みたいにならないようにしたいなっていうのはありますね」(谷尻さん)

新築らしくなくていい。谷尻さんはそう言い切ります。

五右衛門風呂と町屋の記憶

興味深いのは、二人がこうした境地に至った背景に、幼少期の原体験があることです。谷尻さんは広島の町屋で育ちました。暗い家、縁側から差し込む光、そして五右衛門風呂。当時はコンプレックスだったそれらが、50代になって「今の自分をかたちづくるもの」として立ち現れてきたといいます。

「あんなに嫌だった五右衛門風呂でしたが、今は薪を割ってサウナに入るのが大好きですし。暗い場所に落ち着いて、焚き火しながら音楽を聞くのも、すごく好き」(谷尻さん)

現代建築の文法では、重いものは軽く、太いものは細く、透明度は高くすることが「正しい」とされてきました。谷尻さんはその逆を行こうとしています。重たく、太く、暗くてもいい。けれど現代的であるもの。それこそが「次の現代建築」になりうるのではないか、と。

「閉じることも暗くすることも、リアルなものを作って体験してもらえると、そういう価値観に共感してくれる人が増えてきている。少しずつ以前より作りやすい気がします」(谷尻さん)

ラグジュアリーの意味が変わった

二人は最近のラグジュアリーの変化についても言及します。かつての高級は「高い材料といいものを使う」ことでした。しかし今、富裕層が求めるのは「品性」や「価値観」といった、もっと曖昧で、けれど確かに存在する何かです。

「昔はカフェみたいな家に住みたいってみんな言っていました。それが今では、ホテルみたいな家に住みたい、に変わってきています」と谷尻さん。

吉田さんも言葉を続けます。「ヨーロッパでもそうですが、文化が成熟していくと関心が服とかから暮らしのほうに行くわけですよね。誰かに見せるわけじゃないけど、自分がどういう場所にいたいかっていうことへのこだわりが強くなる傾向があると思います」

見せびらかすための消費から、自分のための空間へ。その変化のなかで、SUPPOSE DESIGN OFFICEが提案する「なんかいい」建築は、時代と呼応しているように見えます。

いや、「呼応している」という表現は正確ではないかもしれません。むしろ彼らは、声高に主張しないことを、積極的に選んでいるのです。

Text by AOYAMA Tsuzumi

THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SOIL   テナント物件
〒158-0094 東京都世田谷区玉川2-15-12


THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA SEED   テナント物件
〒158-0094 東京都世田谷区玉川2-16-5


SUPPOSE DESIGN OFFICE
吉田愛・谷尻誠が率いる建築設計事務所。広島・東京の2か所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。近年の代表作に「NOT A HOTEL NASU」「渋谷区ふれあい植物センター」「Hyundai Department Jungdong Store foodmarket」「虎ノ門横丁」など。最近では、東京事務所併設の「社食堂」「BIRD BATH & KIOSK」「絶景不動産」を開業、また2023年広島本社の移転を機に、商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど活動の幅も広がっている。主な出版物として、創立20周年記念書籍「美しいノイズ」(主婦の友社)、作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)、がある。
https://suppose.jp/