
すぐれたクリエイティブはときに人生を変える極上の時間をもたらす。
衝撃的な出来事が、混沌と静けさのなかで次々と迫ってくる。息をのみ、物語に没入し、やがて自身を顧み、その考えや倫理観までも揺り動かされる。そんな力をもったPrime Originalドラマシリーズ「犯罪者」。何が正義で、何が悪なのか。真の犯罪者は誰なのか。人はそれぞれ置かれた立場や境遇で考えも変わっていく。であるならば、あなたは何を重んじ、どう生きる?
脚本の着手から約1年半。役者、スタッフと共に格闘した、辛く、苦しく、そして豊かで贅沢(ぜいたく)な時間でもあった作品づくりについて、松永大司監督に聞いた。

罪を犯したのは一体誰なのか?
ドラマ「犯罪者」は、連続通り魔事件を追うクライム・ミステリーですが、僕が一番面白いと思ったのは、「犯罪を犯したのは一体誰なんだ?」というテーマです。本作の主役のひとり、高橋一生さん演じる刑事の相馬は正義を重んじ貫き通す人間です。でもそうやって正論を振りかざすことによって、優秀な刑事にも関わらず、警察という組織から弾かれ、ドロップアウトさせられていくんですよね。例えば、今回ダンカンさんにお願いしたようなアウトローな刑事ならわかりますが、本来なら圧倒的多数の支持を集めるべき人間がマイノリティとして孤立し、隅に追いやられていく。そういった構造が非常に興味深いなと感じました。

クランクインは昨年の11月で、クランクアップは3月、撮影期間は約4か月です。長かったですね(笑)。というのも、本作「犯罪者」には、主演の3人、高橋さん、元テレビマン・鑓水(やりみず)役の斎藤工さん、通り魔事件の被害者・修司を演じた水上恒司さんはもとより、主役を張れる実力のある役者さんが総勢8人ぐらいいて、そんなみなさんを相手に、まるで8本の作品を撮っているような感じで、ヘトヘトになりました。ものづくりの9割は苦しみしかなくて、どうすれば自分の思い描いたイメージを超えていけるんだろうって戦いが果てしない。ただ本当にぜいたくな時間でもありました。準備期間を合わせると約1年半のあいだ「犯罪者」というひとつの作品に集中できた。役者のみなさんも含め、総勢約80人の制作チームをどう動かし、自分自身も共にどこまで成長できるかということを追求できた、とても恵まれた時間だったと思います。

松永組のリハーサルに役者人生を変えられた
僕は時間をかけてリハーサルを行います。僕は長編初監督作品の映画「トイレのピエタ」(15)のときからずっと同じやり方で撮っています。橋口亮輔監督の映画「ハッシュ!」(02)に役者として参加し、それがきっかけで橋口監督の映画「サンライズ・サンセット」「ゼンタイ」(13)に監督助手のようなかたちでつかせてもらった、その経験からです。橋口監督は、台本はもちろんですがリハーサルで作品を構築していく方で、ものすごく勉強になりましたし、大きく影響を受けています。
リハーサルはクランクインの約2週間前から、役者さんによっては撮影が始まってからもやります。例えば主役の3人でいうと、台本があって、セリフの流れがあって、でも台本では3人の構図みたいなものまでははっきり見えないわけです。だから3人で話しているけれど1対1なのか、2対1なのか、誰が誰に向けて話しているのか、誰が何を誰に伝えようとしているのか、会話の方向と情報のベクトルが違っていたりする。そこはかなり確認しながら進めました。

あとはそれぞれの距離感です。全7話最初から最後まで、主役の3人のシーンとそれぞれが登場するシーンはすべてリハーサルして、最終回7話のエピソードのラストまでやったあとに、もう一度最初に戻って第1話をやりました。そうして、相馬を演じる高橋さんと修司役の水上さんの距離はここから始まってこんな感じになっていく、だったらこうしたほうがいいかもねと、7話のラストシーンでつくったものから逆算し第1話を修正する。そこまでやってから、クランクインを迎えました。
ただリハーサルでは最終形態には絶対に持っていきません。それは現場のカメラの前でいいと思っていますので。大体八割ぐらいまでできていればよくて、あとは役者のみなさんに託します。「それぞれが寝かせてちゃんと立ち上げて現場に来てくださいね」といった感じです。本作に参加してくださった役者のみなさんもその必要性を感じてくださっていたと思います。

求めたのは「見せないアクション」
アクションシーンはかなり時間をかけて考えました。特に冒頭の駅前広場で起きる通り魔事件の描写は、あえて淡々と描きました。僕がほしかったのは「見せないアクション」でした。そこは、アクション監督の栗田政明さんとかなりディスカッションして、僕の演出による、抑えた芝居のトーンと同じ性質のアクションをつくってほしいとお願いしました。でもそれって本当に何もやらないに近いというか、いかにシンプルに、あくまでも芝居の動作の延長線上にある動きとしてアクションを展開するかで、そこはとても苦労しました。ただ実際に、公衆の面前で平然と人の命が奪われてしまうような事件も残念ながら起きています。そのあっけなさが逆に現実味となって、より不気味さや恐怖につながればと思いました。

全7話、話数によってトーンも変えています。例えば、前半の1・2・3話はデイヴィッド・リンチ監督の「ツイン・ピークス」(90ほか)のような気持ち悪さを出したくて、音楽の川井憲次さんとも相談し、ドラマ全体を通して音にもすごくこだわって仕上げています。後半はバディものとしてスピード感のあるつくりにしていますし、面白さもどんどん変わっていくと思います。最初にお話しした8人の主人公を相手に、クライム・ミステリーでありながら、企業ものであり、社会派ドラマであり、友情ものでもありとジャンルの異なった4作品を手がけているような感じでした。映画だとそんな幕の内弁当のようなものはつくらないのですが、それも連続ドラマである本作だからこそできた挑戦でもありました。

辛いときは、自分の限界を超えているときなんだ
自分を超えていこうという思いは常にあります。だから難しい、辛いなってときは、自分の限界を超えているときなんだといつも思っています。すごく意識しているのは、ひとつのコミュニティの中で、自分がある程度上のほうに行けたと感じたら次のコミュニティに移るということです。そうやって自分が一番下のレベルにならざるを得ないところに身を投じ、またもがきながら登っていく。海外の映画祭に行くと本当にすごい人たちと出会えます。僕が脚本で参加した、インドネシア映画「SLEEP NO MORE」(26)のエドウィン監督も素晴らしく意識の高い人でした。そういった人をどんどん見つけて、それで自分のモチベーションと実力をあげていく。

敵(かな)わないなと思えるような人と一緒にいたほうが絶対にいいし、厳しいことを言われたほうがいい。僕には監督として到達したい目標があって、そこに行くためにはいまのままではダメなんです。だから苦しい時間が続いていることのほうがまっとうだと思っています。現状はまだ3合目ぐらいでしょうか。5合目と言おうとしたのですが、戒めも込めて3合目で(笑)。でも実は7合目より上は見えてないのかもしれません。僕の想像もつかない、もっともっと上があるのかもしれません。

自分のつくったものが、少しでも観た人の力になれば
僕なりの正義は、相馬に対しても、修司に対しても、鑓水にも、そしてユースケ・サンタマリアさん演じる中迫(なかさこ)に対しても、実はそれぞれに入っています。誰が犯罪者なのか─本作の重要なテーマですが、正義と悪をわかりやすく描くようなことはしていません。誰でも悪にもなるし、正義にもなる。表裏一体のようなものでもありますよね。僕は、師匠である舞台演出家の平山一夫さんに言われたことがあるんです。「正義、正論は圧倒的な暴力だってことを覚えておきなさい」と。正義だって貫き通すことで人を傷つけてしまうこともある。それに、世の中で悪だとされることをしたとしても、本作では内野聖陽さん演じる真崎がまさにそうですが、彼は絶対に許されないことをしたのですが、それで救われている人たちもいるわけです。「真崎という人間を、真崎が起こしたことを、あなたはどう思いますか?」と、観た人に突きつける。「犯罪者」というタイトルのすごさはそこにもあると思っています。

正しい人が正しく評価される世の中ではない。正義や正論って相対的なものでもある。10人いて9人が裸だったら、服を着ている人のほうが恥ずかしいってこともあるわけです。でも、ものづくりが担う役割のひとつが、マイノリティを主人公にしたり、そこに光を当てることなのだとしたら、正義感にあふれる相馬のような人間が組織から追いやられていく姿を自分の投影だと感じる人もいるでしょうし、そこにシンパシーを抱く人もいるかもしれない。こういう信念の通し方もあるのかとか、生きづらい世界だけれど、こんなことが起きるなら生きていく価値もあるのかもしれないと勇気をもらう人もいるかもしれません。映画に救われた僕としては、自分がつくったものが、それに触れた人に少しでも豊かな時間をもたらしたり、生きる上で何かの力になればいいなと思っています。

松永 大司|Daishi Matsunaga
1974年東京都生まれ。2011年に、友人でトランスジェンダーの現代アーティスト・ピュ~ぴるを8年間追ったドキュメンタリー映画「ピュ~ぴる」で監督デビュー。ロッテルダム国際映画祭をはじめ多くの映画祭で注目を集める。2015年公開の劇場長編初監督作品「トイレのピエタ」(監督・脚本)でも高く評価される。また、映画「エゴイスト」(23)では、アジア・フィルム・アワードで宮沢氷魚が最優秀助演男優賞を、ニューヨーク・アジアン映画祭では主演の鈴木亮平が世界的にもっとも活躍が期待されるアジアの俳優に贈られるライジングスター・アジア賞を受賞するなど、国内外の映画賞を席巻。2026年のベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された、インドネシアの気鋭・エドウィン監督の最新作「SLEEP NO MORE」では共同脚本を務めた。主な作品に、THE YELLOW MONKEYの1年間を追ったドキュメンタリー映画「オトトキ」(17)、村上春樹原作の映画「ハナレイ・ベイ」(18)ほか。

Prime Originalドラマシリーズ「犯罪者」
白昼の駅前広場で起きた通り魔事件の被害者・繁藤修司(水上恒司)は、搬送先の病院で見ず知らずの男から戦慄の宣告を受ける。「あと10日生き延びてください。きみが最後のひとりなんだ」。事件を追う刑事・相馬亮介(高橋一生)は、犯人は薬物による錯乱状態で無差別刺殺事件をおこし、みずから中毒症状で死亡したという、警察の見立てに疑問を覚える。やがて修司のもとに黒い影が迫る。間一髪のところで修司を救った相馬は、元テレビマンでフリーライターの鑓水七雄(斎藤工)を頼り、3人は見えない敵へと挑んでいくこととなる。
出演:高橋一生・斎藤工・水上恒司・ユースケ・サンタマリア・MEGUMI/内野聖陽
原作:太田愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
監督:松永大司
脚本:櫻井武晴
音楽:川井憲次
制作:PROTX
製作著作:PROTX
Ⓒ PROTX
Prime Videoにて世界独占配信中
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