
東急東横線「祐天寺」駅から徒歩7分、「中目黒」駅からは徒歩8分。目黒川の支流である蛇崩川(じゃくずれがわ)がかつて流れていた河岸段丘の上にあるのがTHE GRANDUO KAMIMEGURO。
設計を手がけたのは、aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所を主宰する建築家・ヨコミゾマコトさんです。群馬県の「富弘美術館」をはじめ公共建築から住宅まで幅広い作品で知られ、THE GRANDUOシリーズでは奥沢(2025年4月7日投稿記事)の物件も担当してきました。
今回のプロジェクトでヨコミゾさんが掲げたコンセプトは、100年前のパリ装飾博覧会が示した精神「レスプリ・ヌーヴォー」を現代に蘇らせること。そして、街や自然の「流れ」を建築の中に取り込むことでした。
土地が記憶する、水の痕跡
「蛇崩」(じゃくずれ)という地名をご存じでしょうか。蛇のようにうねりながら大地を侵食した川の痕跡を示す、風土を著す名称です。この敷地には、北側から南側へ向かって約5メートルの高低差があります。一般的なデベロッパーであれば、この起伏を造成で平らに均し、効率的な建物を配置するかもしれません。
しかし、ヨコミゾさんとフェイスネットワークはその道を選びませんでした。
「東京には微地形と言われる細かな起伏がかなりあって、そういったところに緑地が残っていたりする。賑やかな場所だけじゃなく、ひっそりと静かな場所も含めてその全体が街の魅力なんです」
ヨコミゾさんが言うように、かつての川が刻んだ記憶を消し去るのではなく、その地形をそのまま建築の骨格として利用することに価値を見出したというわけです。

トンネルを抜けると、そこは
敷地内には「パスウェイ」と呼ばれる通り抜けの道が設けられています。敷地の高低差を活かしたその通路は、まるで裏路地を抜けるような体験を生み出します。
「そういう、裏路地をくぐり抜けるという体験は誰もが様々なイメージとともに記憶のどこかに持っていると思うんです。ギリシャの集落や鎌倉の切通しとかを思い出す人もいるかもしれない」
とヨコミゾさん。

それは住宅のまわりに、住まうこととは別のスイッチを潜ませる狙いです。朝と夕方では光の入り方も変わり、季節ごとに異なる表情を見せるでしょう。さらに、建物の外周と内部の通路を合わせると、敷地をぐるりと一周できる回遊動線が生まれています。
「地域を散策する面白さが、そのまま敷地の中まで連続していて、回遊することもできる。歩くことを楽しむことがこの街に住むことになるのではないかと思いました」
街と建築の連続性こそが、THE GRANDUO KAMIMEGUROの核心です。
三つの領域が織りなす、暮らしのグラデーション
住戸の内部は、「アウターゾーン」「インナーゾーン」「プライベートゾーン」という三つの領域で構成されています。一般的なマンションでは、玄関を開けた瞬間に完全なプライベート空間に切り替わります。しかし、この住まいは違います。
玄関を入ってすぐの空間「アウターゾーン」は、まだ外部との中間領域です。通常であれば「上がりかまち」があるべき場所に、それがありません。床の仕上げもタイルなど外部の気配を残したものが続き、自転車をメンテナンスしたり、ペットとともに過ごせる場所にもなるでしょう。
その次の空間「インナーゾーン」には、友人を招いてパーティーを開けるような空間があります。ここはまだ「表向き」の領域。そして浴室やトイレを挟んだ奥に、本当の意味での私的な空間「プライベートゾーン」が控えているというあんばいです。

「心にゆとりのある方って、他者を許容できるんじゃないかと思うんです」
とヨコミゾさんは語ります。自分の領域だけでなく、街並みや周囲のことにまで関心を持てる。そういう人々のための、豊かなゆとりのある人にふさわしい住まいとして、この空間は設計されています。
見えない快適さ「FULNESS」
THE GRANDUOシリーズに共通する設計思想「FULNESS」は、この物件でも健在です。
全居室の壁面に施されたナノメタックスコーティング、建物全体の水を浄水する「良水工房」システムなど、目には見えないながらも暮らしの質を根本から支える技術も随所に採用されています。
外装にはグローバソル(ベーク社)製のシリケート塗装が施されていますが、その理由が実に興味深いものでした。
「塗料は多くの場合、石油を原料としますが、それこそがカビの栄養源なのです」
つまり外壁のカビの温床は塗料そのものであり、そこにカビが張り付き、寝床にして増殖してしまうのだそうです。
「その有機物、つまり石油から作られるっていうのがNGなんです」
グローバソル(ベーク社)製のシリケケート塗装はそうした有機成分を含まないため、「汚れが寄りつかない、育ちようがない」というわけです。この塗装技術は、純白の外観を長期間にわたって維持できることを期待して、アメリカのホワイトハウスの修復にも使われているものだそう。
「調べてみたら、あのバウハウスの建物も修復後はこれを使っていることがわかって。あ、これはいいな、と思いました」

祐天寺・中目黒という立地の妙
このエリアは港区の華やかさではなく、自分たちが本当に好きなものに価値を見出すタイプの人たちが多いのだそうです。中目黒から祐天寺、学芸大学にかけての界隈を愛し、このエリアで外食やショッピングも完結させる。そんなこだわりを持った人々が集まる土地柄です。
「予定地から駅まで歩いてみて、思ったよりアップダウンがあって驚きました」
とヨコミゾさんは振り返ります。
「調べてみたら蛇崩という地名があって、まさに川が大地を侵食して作った痕跡を示す地名なんです。お寺があったり、古い街道が走っていたり。単純じゃないな、やっぱり東京の街は面白いなと改めて思いました」
徒歩圏内には代官山や東山があり、池尻や三宿も歩いていける距離です。賃料80万円前後のこのクラスでは、意外にも車を持たない住人が多いと聞きます。電車と徒歩で十分に暮らしが完結する立地が、そうしたライフスタイルを可能にしています。
「ラグジュアリー」という言葉があります。しかし、フェイスネットワーク代表の蜂谷二郎氏がプロジェクト初期に求めたのは「高級感」ではなく「上質」でした。
「いわゆる上辺の高級感を醸し出す何かで飾り立てるようなものではなく、それを削ぎ落としても、そのあとにきちんと質が残っている。そのようなものを求めていると蜂谷さんから言われました」
とヨコミゾさんは振り返ります。

100年後も愛される住まいへ
1925年のパリ装飾博覧会で提示された未来の生活空間を、現代の私たちは手に入れられているでしょうか。
ヨコミゾさんは当時の写真を眺めながら、「できていない」と言います。
キッチンや浴室、トイレといった機能的な部分は確かに進歩しました。しかし、それ以外はどうか。
「ただの箱でしかなくて、しかも未だに画一的なスタイルの住居が量産されている状態。100年前のあの空間に、まだ届いていないんです」
2025年は、パリ装飾博覧会からちょうど100年という節目でもあります。
「時間が経っても価値が保たれる住宅とは何かと考えると、やっぱり最初にしっかりと考えられて、施工も含めてこだわりを持って作られていること。適当が一切ないこと。それが重要だと思います」

THE GRANDUO KAMIMEGUROは、そうした思想を体現する住まいです。街の記憶を継承し、住む人の暮らしに寄り添いながら、やがてヴィンテージと呼ばれる存在へと熟成していく。その第一歩が、今まさに始まろうとしています。
Text by AOYAMA Tsuzumi
THE GRANDUO KAMIMEGURO
〒153-0051 東京都目黒区上目黒4-33