
二子玉川駅から多摩川へ向かって歩けば、五分とかからないうちに、ここが東京であることをわずかに忘れてしまいそうになります。商業エリアの賑わいが、住宅街の穏やかさへと移り変わっていく。その境界のような場所に、ひとつの問いを抱えた建物が誕生しました。
輻射空調システム「THEAR(シアー)」、ファイテンの「ナノメタックス技術」、そして世界初、空調機能付アイランドキッチン 「KUAIR(クエア)」による、『リカバリー・レジデンス』。リカバリーの仕組みを核心に据えた「THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA」は「どう生きるか」を問う空間として設計されています。
ファイテン代表の平田好宏さん、グリーンレイズ輻射空調エンジニアリング代表の藤原淳之介さん、そしてフェイスネットワーク代表の蜂谷二郎と後編には同社執行役員の久野泰浩が参加し、この空間について語り合いました。
ラグジュアリーの意味が、ゆっくりと変わっています。そのなかで、フェイスネットワーク代表の蜂谷は、20年にわたって「デザイン」と向き合い続けてきました。
著名建築家との協働、一戸一設計の哲学、国内外から注目を集める空間の数々。それだけの蓄積を持ってなお、蜂谷はある問いを手放せなかったといいます。


ここに住んだ人が、自分が家を建てる時には必ず輻射パネルを入れたいなと思ってもらえるような物件を提供したい。それが、蜂谷がこの8年、9年という長い間、ずっと抱えてきた夢でした。
「デザイン性の高さを追求していった時に、やっぱりデザインには限りがないのだなとわかりました。でも、それ以上に“何か”が足りないってずっと思っていたんですよね。いろいろとチャレンジしている光、空気、水っていう観点こそ、住居に取り入れた時に、本当に人が生活したい空間っていうのが実現できるんじゃないかと考えました」(蜂谷)

鍾乳洞と「ととのえる空調」の話
日本の夏のエアコンは、もはや戦いです。
「カフェとか電車の中とか、めちゃくちゃ寒いじゃないですか。飲食店でもバーッと冷気が当たって、もう止めてくれっていう時もあると思うんですけど」と風のでない空調機であるTHEARを提供した、藤原淳之介さんは笑って話します。

藤原さんが輻射空調について、とてもわかりやすく語ります。
「鍾乳洞をイメージしてください。鍾乳洞に入ると、すうっと冷気に包まれるような涼しさを感じますよね」(藤原さん)
夏は鍾乳洞のような涼しさ、冬は陽だまりの木陰のような温かさ。これが、THEARのもたらす新しい価値です。
「風が当たり続けることにより、体内の水分は徐々に奪われていきます。水分が奪われると、気化熱の作用によって体温が低下します。
人間の体はデリケートであり、わずか1℃の体温の変化でも体調不良や活動低下を引き起こすことがあります。そのため、人体は本能的に身を守ろうと働き、細胞レベルで防御反応が起こります。具体的には、毛穴が閉じたり、身体が硬直したり、血管が収縮するといった変化が現れます。
このような状態が長時間続くと、自律神経のバランスが乱れ、いわゆる冷房病や、頭痛などの不調を引き起こす原因となります。長時間風に当たり続けることは、私たちが思っている以上に人体へ大きな負担を与えているのです」(藤原さん)
さらに、一般的なエアコンが室内湿度を30〜40%まで下げてしまうのに対し、THEARのシステムでは快適域とされる50〜60%に収まりやすい。(※室内環境によって変動します)「乾燥しない空間」は、喉や肌にとっても別次元の住環境です。

今回THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWAで採用している「ファイテン輻射式冷暖房システム」は、ファイテンとグリーンレイズの共同研究によって、輻射空調パネルの表面にファイテンのナノメタックスコーティングを施し、さらに内部を循環する冷媒水にもその効果を実装したものです。通常のモデルは暖かい、涼しい、風が出ないから、心地いい。これは、まさに空調の効果です。
「そこにファイテンさんの『ととのう』がプラスになることで、「ととのう空調」になるんですよね」と藤原さんは言う。1+1が、3にも4にも10にもなるような効果が得られているのです。
健康対策は「やめてしまう」から住居に宿す
健康でいたいが、健康的生活を維持し続けることは簡単ではない。そんな矛盾を43年にもわたり観察・研究し続けてきた、ファイテン代表の平田好宏さんは言います。
「せっかく健康のためにと取り組まれても、大半は途中で辞められてしまうんですね。体に問題を感じた時は解決まで頑張るんだけど、良くなれば結局サボっちゃう」。だから、「継続して健康によい生活をするのであれば、住居そのものを改善するしかない」と考えてきたそうです。

「我々が本当のリカバリーだと思っているのは、元に戻す、ということです。ストレスは長く受け続けていると、興奮しっぱなしが続くんですよね。人間は本来、健康でいようとするのが当たり前の状態なので、元の状態に戻してあげるだけで良いと考えています」(平田さん)
つまり、邪魔なものを取り除くことがリカバリーであり、何かを足す必要はないという考え方です。
「健康に関するものはつい機能優先でデザインが後回しになったものが多いじゃないですか。それをどういう風にスマートにしようかということは我々も苦労してますね」と平田さんは正直な想いを吐露します。

今回、壁面・天井全体に「ナノメタックスコーティング」が、その問題を解消しました。一度施工すれば、ナノレベルで発揮するので、建材の自由度が飛躍的に高まりました。さらに、藤原さんとの共同開発で平田さんが感じたのは、輻射熱との「相乗性」でした。
「暑いことに対するストレス、嫌な気持ち、寒い時の不安感、体の硬さ。そういうものがパネルから出る波長によって緩和される部分があるように感じました」(平田さん)

温度を変えることは、温度に対する身体の反応を変えることです。この視点が、両者の技術を繋ぎました。
「暑さ寒さを超えた無意識の快適な空気が、提供できているんじゃないですかね。実際この部屋に入った時、なぜかほっとしませんでしたか?」(平田さん)
KUAIR誕生、沈黙の10分間
どんなに高性能な設備も、部屋の中で「浮いて」見えたら意味がありません。輻射空調機は従来、大型のアルミ板をそのまま壁に設置する形でした。機能はいいが、どうしてもデザインが納得できるものではありませんでした、そう振り返るのはフェイスネットワーク執行役員の久野です。
「部屋の中にポンとあるとずいぶんとインパクトがあるよな、とは思いました。それならいっそ、家具みたいな扱いをすれば、パネルの存在がデザインとして一つの形になるんじゃないかと発想を変えてみました」(久野)

こうして誕生したのが「KUAIR(クエア)」。世界で初めてとなる空調機能を備えたアイランドキッチンだ。もともと、キッチンは水まわり設備であるため、給水管や排水管が必要となる。一方で、輻射空調機にも給水管や結露水を排出するドレン配管が必要なのです。KUAIRは、これらの設備要件を合理的に統合したユニークな製品です。
キッチン設計・建築設計・空調設計といった多様な要素が複雑に絡み合う、極めて難易度の高いプロジェクトの完成までの道のりは、決して平坦ではありませんでした。限られた工期の中で現場は混乱する局面もあったというが、チーム一丸となって挑み、乗り越えました。

「これまでなかったものを作るわけですから、もちろん大変でした。しかし、やるんだという思いの方が強かった」と久野は振り返ります。
今、最上階の住戸では、キッチンに立つだけで、そのまわりのリビングに座っているだけで輻射熱のやわらかさに包まれるという体験が生まれています。意識しなければ、ただ「なんとなく快適なキッチン」ですが、そこが良い、というわけです。
全ての価値は、見えないものへ
藤原さんがグリーンレイズ輻射空調エンジニアリングを設立したのは2024年の12月。
「あえて社名に『輻射空調』という言葉を入れました。まだ認知度が低く、難易度が高いこの領域で勝負するなんて無謀じゃないかと言われたこともあるんですけど、『このすばらしい空調を世の中に普及させたい』という決意で取り組んでいます」(藤原さん)

「THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA」は、環境性能や室内の快適性、景観といった建築物の品質評価である「CASBEE」では最高位Sランクを取得。さらに住まいの断熱性や省エネ性能と太陽光発電などでのエネルギー創出により年間の一次消費エネルギー量の収支がゼロ(または限りなくゼロに近い)の共同住宅に与えられる「ZEH-M Ready」も取得。外断熱工法と輻射空調の相乗効果で、環境負荷を下げながら住む人の健康を底上げします。
THEARもKUAIRも水冷式のため、エアコンに必須とされる室外機は、パネル5台に対して1台で済むという利点も。「室外機が何層にも並んだ光景は美しいだろうか?」という蜂谷の長年の問いにも、ひとつの答えが出ています。
「見えない価値を評価して、それを取り入れる、本物を見抜いてくださる入居者さまが増えたなというのを、すごく実感しているんです」(蜂谷)
そして平田さんのこの一言は、執念とすらいえる思いを凝縮しています。
「43年間、ずっと同じこと(健康課題の解決)をやっている」。
人間の、元からある力に戻すという一点に向けて、43年間技術を磨いてきたファイテンと、風も音もない、究極の心地よさを追求し続けるグリーンレイズ、城南エリアで賃貸住宅の常識に挑んできたフェイスネットワークが交わって、住まいはまた進化を遂げました。

今回、壁面・天井全体に「ナノメタックスコーティング」が、その問題を解消しました。一度施工すれば、ナノレベルで発揮するので、建材の自由度が飛躍的に高まりました。さらに、藤原さんとの共同開発で平田さんが感じたのは、輻射熱との「相乗性」でした。
「暑いことに対するストレス、嫌な気持ち、寒い時の不安感、体の硬さ。そういうものがパネルから出る波長によって緩和される部分があるように感じました」(平田さん)
あなたがそこに住んだとして、最初は何も気づかないかもしれません。気づかないまま、日々が少しずつ整っていく。数週間後に「なんとなく、体調がいい気がする」と思ったとき、この家が成功したことがわかるでしょう。
Text by AOYAMA Tsuzumi | Photograph by DESHIMA Yu
Yoshihiro Hirata|平田 好宏
ファイテン株式会社代表取締役社長。独自技術である「アクアメタル」を軸に、スポーツおよび健康分野における商品開発と事業拡大を牽引。ネックレスやボディケア製品を中心に、多くのトップアスリートから高い支持を得ており、国内外へと事業を展開している。近年では、アパレルや住空間へと領域を広げ、「技術を生活に組み込む」という発想のもと、新たな価値創出に取り組んでいる。
Junnosuke Fujiwara|藤原 淳之介
グリーンレイズ輻射空調エンジニアリング株式会社代表取締役社長。省エネルギーと高い快適性を両立する輻射空調システムの普及に取り組む。設計・施工・保守までを一貫して担うエンジニアリング体制を強みに事業を推進。オフィスや商業施設、住宅など多様な領域で導入を拡大し、環境負荷の低減と空間価値の向上を実現している。
Jiro Hachiya|蜂谷 二郎
フェイスネットワーク代表取締役社長。「一人一人の夢の実現をサポートするワンストップパートナーであり続ける」という理念のもと、お客様やその家族の人生プランに寄り添うスタイルで事業を展開。城南3区と呼ばれる世田谷区・目黒区・渋谷区を中心に300を超える物件を手掛ける。
Yasuhiro Hisano|久野 泰浩
フェイスネットワーク 執行役員。技術と空間をつなぐ実装の担い手。本プロジェクトでは世界初のキッチン一体型輻射パネル「KUAIR」のアイデアを発案・具現化し、デザインと機能の同時達成を果たした。
THE GRANDUO FUTAKOTAMAGAWA
〒158-0094 東京都世田谷区玉川2-10-14