
それはいまから3年前。世田谷区代田・羽根木公園に連なる旧日本銀行舎宅地との出会いから始まった。
2026年4月に完成したTHE GRANDUO HANEGIは、前年5月に竣工した戸建住宅THE GRANHAUS HANEGIと一体で計画されたプロジェクトだ。約90メートルにわたり建ち並ぶ建物群は、銅板のファサードを持ち、立体的に配された植栽と相まって印象的な街路空間をつくり出している。
設計を手がけたのは、「16アーキテクツ(イチロクアーキテクツ)」を主宰する建築家の小川達也氏。羽根木プロジェクトを担うフェイスネットワーク代表の蜂谷二郎とは、長年にわたって交流があり、近年はTHE GRANDUOシリーズを中心に複数のプロジェクトで協働してきた。
「羽根木に新たな街並みをつくる」──羽根木プロジェクトとよばれたそれは、ふたりにとっても初となる壮大な試みだった。

建物に時間を宿し、街並みをつくる
蜂谷:小川さんとは、うちのスタッフがまだ5人とか6人だった頃から、もう17、18年のお付き合いになりますが、当初は小川さんが思い描くものをつくれる力がわれわれになくて。少し時間をいただいてしまったのですが、最近は本当に密にやらせていただいています。この2、3年は、小川さんとほぼ一緒にいるような感覚です(笑)。
小川:(笑)。プロジェクトが続いていますね。
蜂谷:約3年前にこの羽根木公園に隣接する土地と出会いました。長さ約90メートルという元は日本銀行の舎宅が建っていた場所で、瞬間的に、集合住宅の建設という枠にはとどまらないプロジェクトになるなと予感し、旧知の仲である小川さんとご一緒できたらと夢を膨らませていました。

建築家 小川達也氏
小川:蜂谷さんのおっしゃる通り、まず、羽根木羽公園に続く約90メートという敷地に興味を抱きました。実はこのエリアに自宅があるので、街の空気感のようなものはよく知っているんです。近隣には在来樹と共存する著名なテラスハウスなどもあります。建築を建てることで、街並みが豊かになり、場所の価値も高まる。地域自体をデベロップし、価値観を創造するようなプロジェクトになり得るという手応えがありました。だから最初のプレゼンテーションで、「建物というより通りをつくりましょう」と提案しました。
蜂谷:とにかくそのプランニングが素晴らしかった。われわれが思い描いた理想のプロジェクトになると思いました。

フェイスネットワーク代表 蜂谷二郎
小川:建物の価値は新築時が一番高いという見方が一般的ですが、そうではなく、10年、20年経ったときに、より建物も、通りの価値も増す。建物が連なることで、環境をつくり、地域の価値を高め、さらには建物自体の価値も上がっていく。そういったプロジェクトにできたら面白いと感じました。
蜂谷:しかも90メートルの通りには、戸建て4棟から成るTHE GRANHAUS HANEGI(以下GRANHAUS)と3棟9戸の集合住宅が連なるTHE GRANDUO HANEGIという、異なった居住形態を準備しました。われわれはこれまでマンションをメインで手がけてきましたので、戸建て住宅と集合住宅を一体で計画すること自体、ひとつのチャレンジでした。ただ、地域性、そしてやはり90mという敷地形状を最大限に活かすことを考えた結果、賃貸の戸建てと集合住宅という両方のニーズに応えたいという考えに至りました。

時間をまとって育つ銅板と緑
蜂谷:計画は、資材置き場や運搬など施工上の都合もあって、まずは羽根木公園側の戸建住宅GRANHAUSを完成させ、その後、集合住宅であるTHE GRANDUO HANEGIに着手するという2期工事で進めました。小川さんの最初のプレゼンテーションでは、90メートルというスケール感と、低層の街並みに重なる緑、そして銅板のファサードのインパクトがとても大きかった。今回第2期工事を終え、最初のプレゼンテーションのイメージ通りの仕上がりに、改めて感動しました。

小川:第1期の戸建ての設計期間は4か月ぐらいだったと記憶していますが、設計のタイムラグはありますが、通りをつくるからには、その段階で集合住宅のデザインコードもあわせて、プロジェクト全体の世界観を決めておく必要がありました。そこで最初に、同じようにエイジングしていく銅板と、時間とともに豊かになっていく立体的な緑を、全体に共通する要素として考えました。
蜂谷:これまで、土地の仕入れから設計・施工・販売・管理までを一貫して担う「ワンストップサービス」体制を築いてきました。それはデベロッパーとして、「建てる」そして「建てたあと」まですべてに責任を負うということです。ですからいつも、経年で変化しにくい建物をつくることを念頭に置いてやってきました。けれどもこのプロジェクトは、むしろ「経年変化を楽しむもの」なんですよね。ある意味、従来のコンセプトを逆手にとったプロジェクトで、それに対しても相当な期待感があります。ソリッドなコンクリートと銅板で構成されたファサードのインパクトが強くて、しかも銅板はさまざまな勾配やボリュームを持っていて、アートピースのような趣すら感じます。
小川:銅板は古くから神社仏閣にも使われてきたように、日本の風景になじみの深い素材です。最初はピカピカしていて、「おっ」と思われるかもしれません(笑)。ただ、1年前に完成した戸建てのGRANHAUSを見てもらうとわかるように、時間とともに色味が落ち着き、緑青(ろくしょう)を帯び、やがて周囲の植栽や羽根木公園の緑にもなじんで味が出てきます。そういう楽しみもあるんです。いわば「グッドエイジング」です。

周囲に溶け込む、和のエッセンス
小川:戸建てのGRANHAUSと集合住宅のTHE GRANDUO HANEGIで、それぞれに注力した点や配慮したことというのは特別なくて、等価に扱っている感じです。さきほどから話している、銅板や緑の扱いなどのデザインにはじまり、建物のボリュームのつくり方も含めてです。集合住宅のTHE GRANDUO HANEGIは、全9戸、独立したエントランスと駐車場のある1階を挟んで、地下1階と2階、または地下1階と3階といったふたつのプランで、それぞれ3層構造を積み木のように組み合わせているので、普通のフラットな集合住宅に比べたら複雑に見えるかもしれません。でもその複雑さは豊かさでもあるんです。
蜂谷:戸建てと集合住宅、それぞれのよさを取り入れてつくり上げてもらえたという印象です。

小川:あと集合住宅のひとつのメリットに、同じフロアに広くスペースが取れるというのもありますよね。一方で戸建ては、パイルアップ(積み上げ)する形式になるので、重ね上がったときの、1階から最上階まで垂直に貫く階段や吹き抜けを意識した空間、屋上に広がるビューなどは考えながら計画しました。とにかく戸建てのGRANHAUSの屋上からの眺望がすごくいいんですよね。
蜂谷:そうなんですよ。だから屋上テラスにはアウトドアキッチンを備えつけました。家族や友人と飲み物や料理を囲みながら、あの屋上テラスからみんなで眺める景色は最高だと思います。夜、ひとりで星空を楽しむのもいいですね。本当に気持ちいいと思います。

小川:それともうひとつ、建物自体のボリュームについていうと、ファサードがキャンティレバー状に前方に張り出しているのは、視線を誘導する意味もあります。そこに銅板や植栽があることで、この通りを歩く人の視線は自然と上に向かう。するとその視線の先には羽根木公園がある。近景、中景、遠景のどこにも緑があり、その重なりによって、街路の風景に奥行きが生まれてくるんです。
小川:銅板は伝統的な建築物によく見られる平葺(ひらぶき)技法で仕上げています。意図的に勾配をつけていて、それは内部空間のアクセント的な役割もあるのですが、そうすることで少し和のエッセンスを取り入れ、より周囲の環境に溶け込みやすくしています。銅板のなかには折り紙のように立体的な面を構成している箇所もあるのですが、それらは単なる造形ではなく、北側斜線や日影規制といった条件をクリアするためです。すべてに意味があるんです。僕は法律などの外的要因でイレギュラーなポイントが生まれたときに、それを隠すのではなく、そのままデザインとして表現するようにしています。もしかしたらマイナスに感じられる要因でさえも、何か意味があってのことでしょうし、「意味のあるものは美しい」。だから規制や制約といったものも、何かしらの「美」につなげられると考えています。

受け継ぎ、育てていく価値
蜂谷:われわれはずっと都市の緑化にも取り組んでいるのですが、このプロジェクトは、建物も植栽も主役といった感じですね。
小川:その通りです。建物も植栽も、そのどちらも優位に置かないというなかでの街並みづくりが、この環境には合っていると思いました。それと、住居の正面は北側で通りに面しているのですが、居住空間からの視線をあえて正面に向けないようプランニングにしています。北側に銅板のファサードを配置しているからでもあるのですが、正面でなく少し斜めに視線を向けることで、約90メートルに連なる同じデザインコードを持った建物や緑を眺めながら暮らすことができる。この物件に住まわれる方は、まず建物の外観を気に入ってくださる方が多いと思うのですが、基本的に室内からは外観って見えないわけですよね。でもここなら、気に入って決めた住まいや、それらが建つ街並みを、自身の暮らしのなかで受け取ることができる。いわば「風景の自給自足」だと思っています。

蜂谷:自分の暮らす空間が見えるというのは、わりあい気持ちいいことなんですね。
小川:そうなんです。例えば中庭のある住宅がなぜ気持ちがいいのかというと、中庭越しに自分の住まいの一部が見えるからです。それと、戸建てのGRANHAUSも集合住宅のTHE GRANDUO HANEGIも、リビングの先端をグラッシー(透明)にしていて、通りから少し部屋の中が見えるようになっている住戸があります。たとえばヨーロッパなどでは、公園に面しているリビングの窓辺に花を置いたり飾りつけをしていたり、室内の見えてもいい部分をきれいにしつらえて見せるという文化があります。もちろん本当にプライバシーを守るべき部分はきちんと配慮していますが、通りを歩いているとフッと部屋の中のものが目に入ってきて、そこに暮らしている人の生活がチラッと見える。「やっぱりカッコよく暮らしているなー」とか(笑)、ここに住む方にはそんな暮らし方をしてほしいと思っているんです。

蜂谷:住まいは完成した時点で終わりではない。植物が枝葉を伸ばし、住まわれる方が暮らしを根づかせ、建築と街並みが少しずつなじんでいく。その時間にどう向き合い、次へ受け継いでいくかということも、このプロジェクトにとって大切なテーマです。デベロッパーとして建物に関わり続け、「時間を宿す」というデザインコンセプトを住まい手からまた次の住まい手へと受け渡していく。そうすることで、植物が地に根を張るように、建築も街の一部として息づいていくのだと思っています。それにしてもこれだけのプロジェクトをよくこの期間でやり遂げてくださいました。われわれのスタッフも最大限の頑張りを見せてくれましたし、小川さんには感謝しかありません。

小川:現場は本当に大変でした(笑)。あと希望を言わせていただくと……、蜂谷さんの気持ちも、デベロッパーの宿命も重々理解しているのですが、もう少し工期に余裕を持ってもらえるとうれしい。
蜂谷:いや、本当におっしゃる通りです。小川さんは、毎回われわれの想像を超えるアイデアを提案してくださるので、プレゼン資料を見た瞬間からワクワクが抑えられず、もういち早く完成を見たいと思ってしまうんですよね。
小川:僕は、最初に計画の方向性を提案するファーストプレゼンが好きなんです。なかでも配置計画が一番好きで、それだけでもプロジェクトのコンセプトはかなり説明できると思っています。だから、これからも大きくて地型の面白い敷地を見つけてください。そうすると、おのずとプロジェクトも面白くなるし、いい建物ができると思います。
蜂谷:承知しました!

人物写真撮影:樫井勇弥|Kazuya Kashii
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THE GRANDUO HANEGI(集合住宅)
〒155-0033 東京都世田谷区代田4-33-30他
THE GRANNHAUS HANEGI(戸建住宅)
〒155-0033 東京都世田谷区代田4-33他
小川 達也|Tatsuya Ogawa
建築家/16アーキテクツ(イチロクアーキテクツ)代表取締役・一級建築士
九州大学大学院修士課程修了後、株式会社栗生総合計画事務所を経て、2005年にSoLC建築設計事務所を、2006年には株式会社16Aを設立し代表取締役に就任。高級賃貸住宅や個人住宅、ホテルスパなどラグジュアリーかつ希少性の高い空間づくりを手がける。アジア初の超高級会員制プライベートサーキット「The Magarigawa Club」をはじめ、富裕層向けのプロジェクトを中心に、革新的なアプローチで提案することでプロジェクトに最適かつ唯一無二のデザインを生み出している。東京建築士会正会員。2025年度グッドデザイン賞受賞のTHE GRANDUO MINAMIAOYAMA(港区南青山)・THE GRANDUO CHITOFUNA(世田谷区桜丘)に続き、THE GRANDUO YOGA(世田谷区用賀)ほか、THE GRANDUO シリーズを多数担う。
蜂谷 二郎|Jiro Hachiya
株式会社フェイスネットワーク 代表取締役社長
1988年に金融機関に入行し12年にわたり融資担当として5,000件を超える案件を扱う。お客様に必要とされるサービスを提供したいとの想いから、2001年に投資用不動産を開発するフェイスネットワークを設立。「住みたい」「持ち続けたい」物件開発を信念に、「新築一棟RCマンション」「城南3区(世田谷区・目黒区・渋谷区)」「ワンストップサービス」のビジネスモデルを確立し、300棟を超える物件を手がける。2018年マザーズ上場、東証一部をへて2023年10月より東証の市場再編に伴いスタンダード市場に移行。暮らしやすさとデザイン性を備えた主力ブランド「GranDuo」シリーズ、さらに2025年からは上位ブランドとなる高級賃貸シリーズ「THE GRANDUO」を展開。